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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1796号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人長尾肇次郎の上告趣意第一點について。

賍物の對價として得たものが、犯人以外の者に屬せざるときは、これを沒収することができる、その賍物が公定價格の定めのあるものであるときは、公定價格相當額について、被害者に右對價の交付請求權があり、その請求があれば、裁判所は右相當額を被害者に還付し、(舊刑訴第三七三條第二項)その殘額を沒収することができるのである。(昭和二四年一月二五日、同二三年(れ)第三四六號第二小法廷判決参照)本件において、原審は被害者の請求にもとづいて、被害者に還付すべき賍物の對價の額を算定するについて、各被害者につきその押収にかかる被害品全部の公定價から、その内既に假に還付された被害品(生地のまま)の公定價を差引き、よって、未だ還付されていない物の公定價を算出する方法を採ったのであるが、右は要するに、未還付被害品の公定價算出の方法に過ぎないのであって、さきに、假還付されたもののうちに、所論のように、犯罪後加工されてその價格を増加したものがあるとしても、如上原判決のとった、未還付品の公定價算出の方法としては、かかる増加價格は、これを考慮に入れる必要のないことは、いうを待たぬところである。論旨は理由がない。

同第二點について。

賍物の對價として得たものにつき、被害者からその公定價格に相當する額の交付の請求があった場合には、舊刑訴法第三七三條第二項に從って、これを、被害者に還付しなければならないことは、前段説明のとおりである。

しかし、若し被害者が他からその被害について既に辯償を受けた等の事実があり、そのため、右の還付によって、不當利得をした場合においては、利害關係人は、民事訴訟法の手續に從って、その權利を主張し得ることは、又同條第四項の規定するところである。即ち、刑事訴訟の手續としては賍物の對價については、被害者に對する辯償の有無に拘らず被害者から公定價格に相當する額の範圍内において、その交付の請求のあった場合は、裁判所はその請求額を被害者に還付すべきであってこれによって、被害者が不當に利得するや否やは、専ら民事訴訟において裁定すべき問題で、刑事訴訟の關知せざるところである。

從って原判決が被害者に對する辯償の有無にかかわらず、被害者の公定價に相當する請求額を還付する旨の言渡をしたのは、所論のごとく違法の措置とはいえないのである。論旨は理由がない。

よって刑訴施行法第二條、舊刑訴第四四六條に從い、主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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